□ヘ ブライ編 □カナ ン編 □ バビロン編 □ペルシア編 □ その他編


―崇め祀るは火。唯一神の胎動、光と闇が彩る終末のダンス

             ・ミスラたん・


    「契約しましょう。私の光と、その雄牛」

       Mithra            
 古代ペルシアの光明神。
 太陽の神アフラ・マズダたんと同様の出自を持っており、本来はその神としての地位も同程度だったのだが、最近はゾロアスター教が流行になってきたために 差をつけられ気味らしい。
 もっとも、ミスラたんへの崇拝自体はまだまだ衰えていないようで、ゾロアスター教関係者からも「アフラ・マズダたんほどのポジションは不可能ですけど、 下位のヤザタでしたら募集中ですので、いかがでしょうか」との引き抜きのお誘いがきており、当人はどうしようか悩み中らしい。


・すきなもの・
 ・牛肉
・きらいなもの・
 ・ツァラトゥストラ


・解説
 ペルシアの神々はこの地に移住してきたアーリア人の宗教の影響を受けている。ミスラはその中でも有名かつ重要な神である。
 同じアーリア人たちの神話である古代インドのヴェーダ文献では、ミスラはアスラ神族の一柱、法の神として讃えられている。ただし、インドではこの後アス ラ神族に対するダエーワ(ディーヴァ)神族を信仰の対象とし、アスラ神族を格落ち、引いては悪の神としたために、ミスラへの信仰も弱まることになる。しか し、そのインドで発生、伝来していくことになる仏教では、ヒンドゥー教との対立という背景もあって、アスラ神族を再び善なる神(仏に帰依した神)と捉えた ためにその信仰も強まり、ミスラ崇拝はその中でも有名な弥勒菩薩(マイトレーヤ)へと変化を遂げることになる。
 話をペルシアに戻すと、ミスラはゾロアスター教創始者ザラスシュトラに否定されながらもその存在感を衰えさせることなく、最終的には、再びアフラマズダ と同格の存在にまで上り詰めることになり、多少その信仰の性質を変容させながらではあるが、後のローマにおいてもその名を 轟かせることになるのである。





             ・アフラマズダたん・


    「太陽がもしもなかったら地球はたちまち凍りつく」

AhuraMazda/Ohramazd
   

 ゾロアスター教の全能神。
 全ての善なるものを司る神であり、絶対的な存在。
 創造の神であり、アムシャスプンタという上位霊存在を筆頭に、世界を構成する要素を擬神化したヤザタや守護霊的な性質を持ったフラワシといった、後の世 でいう「天使」のような存在、そして、善なる意思と対立する絶対悪・アンラマンユなどを創造した。
 火をシンボルとしての祭祀は執り行われるが、ゾロアスター教開祖ザラスシュトラは祭祀ではなく精神性により重きを置いている(また、ゾロアスター教では いわゆる修行、苦行もあまり敬われない)。ゾロアスター教において重要なのは唯一神の概念をはじめとするその思想の先進性と、そうした宗教が国家、民衆に 受け入れられたことなのである。
 アフラマズダたん自身は、まだ全能神という誰も経験したことのないポジションに緊張気味らしい。



・すきなもの・
 ・完全な存在なので無し
  …………司法と水 
・きらいなもの・
 ・完全な存在なので無し
  …………最近、昔の友人とうまくいってないのがちょっと悲しいらしい。


・解説
 ミスラ同様、アフラマズダもまたヴェーダ起源の神である。ヴェーダ時代はやはりアスラ神族のヴァルナという名で、司法の神。契約の神であるミスラとは二 柱で一組の存在であった。ここでは太陽、火と関連付けられることの多かったアフラマズダとは正反対に水と関連付けられることが多く、仏教に伝えられた際に は水天として崇められることとなる。
 ただし、ゾロアスター教の主神として形成しなおされたアフラマズダ自体にはヴァルナとの関連性はかなり薄く、せいぜい司法を司るという部分が名残であろ うか。その名、「アフラ(神々)」の主(ヴァルナ)の「マズダ(叡智、光明)」が示すように、信仰が人々に受け入れられやすいように、既に実地のあった神 を最高神としたのであろう。
 アフラマズダの信仰、もしくはその神性は故郷インドに里帰りもしくは逆輸入され、アスラの王にして太陽の神ヴイローチャナとなった(アスラという属性を 語られず、ただの太陽神として語られる場合もある)。目立った神話こそ少ないものの、アスラの王というポジションは護法神として仏教へ伝えられた際に非常 に重要な働きを示し、ヴィローチャナは華厳経において釈尊(実在したゴータマ・シッダールタ)を超越した、事実上の最高神格である毘盧遮那仏となる。さら に、日本においても密教などでは大日如来(マハーヤーヴァイローチャナ)として絶大な信仰を集めることとなるのである。
 まさに、あらゆる神々の中でも非常に重要な神格だと言えよう。
 
 デザイン的には、一般的なアフラマズダのイメージ(紋章のような羽は本来はアフラマズダではなく下位精霊であるフラワシをあらわしているともされるが) と阿修羅をかけあわせた感じ。
 下半身が羽の中にあるのがわかりにくいのが悲しい。






         ・ウォフ・マナフさん・


     「何を求める、何が存在する、何故に」

    VohuManah/Vahman           
  絶対神アフラマズダによって創り出された天使存在の代表格であるアムシャ・スプンタの一柱。
 「善意」を司る存在にして、アフラマズダ、およびその化身たるスプンタマンユに次ぐ存在である。
 ザラスシュトラを導いたのも彼だとされており、人々の魂を導くとされている。
 宿敵はアカ・マナフ

・すきなもの・
 ・善人、動物
・きらいなもの・
 ・悪人


・解説
全っ然関係ない話だけど、玩具業界本格参入時期のコナミの作品てやったらと神話ネーミングが多かったけど、その中でも超星神シリーズの宇宙連邦の名前がこ の方だったのはちょっと考えてるなあ、と感心した。





             ・アシャさん・


            「ファイヤ!」

    Asa/AsaVahista           
 「天測」を司るアムシャ・スプンタ。
 アシャはゾロアスター教における最高の理念であり、理想的世界像の根源的構成要素となるものだという。アシャはその概念を神格化した存在。
 ワヒシュタ=最善なる者の名を与えられた彼はあらゆる悪の顕現と戦いを繰り広げるという。宿敵はドゥルジ、インドラ。
 なお、こんななりだけど、男の子。


・すきなもの・
 ・火
・きらいなもの・
 ・蠅


・解説
 アシャに関しては、確か私が最初に見た解説本(多分、新紀元社だな(笑))では性別は女性としっかり明示されていたため、しばらくの間それをそのまんま 覚えていた私は、いまだにアシャというと女性っぽい感じがあったりなかったり。
 まあ、アムシャ・スプンタの中でももっと美しいとされるそうなので、女顔でも問題ないかと考えよう。





    ・アールマティさん・


 「タローマティちゃん、
     少しは大きくなったかしら?」


    Armaiti/Spendarmad
            
  「愛情」「敬虔」「寛容」「献身」「貞節」などを司るアムシャ・スプンタ。アフラマズダの娘と称されることも多い。
 やさしく穏やか、容姿端麗な理想的な女神。大地そのものを象徴する。
 宿敵はタローマティ。タローマティからすると、アールマティの体型もちょっと許せなかったりするらしい。
 

・すきなもの・
 ・貞淑
・きらいなもの・
 ・下衆女


・解説
 アナーヒターとかもそうだけど、ゾロアスター教における女性女神(アフラマズダの眷属たる天使的存在)は、わざわざないすばでぃだと記述されているお方 が多いような気がします。ペルシアの人たちの趣味なんでしょうか。いいことだと思います。
 なお、アールマティはヴェーダ時代から信仰されてきた女神のようです。聖典アヴェスター中唯一ザラスシュトラ自身の手がかかっているとされる「ガー サー」においても、彼女はゾロアスター教完成後のアムシャ・スプンタとしてではなく、古来からの女神としてその名前が現れます。





             ・クシャスラさん・


       「ワタシハ、クシャスラ。アクユルサナイ」

 Kshathra/XrasraWairya/
 Shahrevar            
 「王権」や「神の力」を司るアムシャ・スプンタ。抽象的な存在で、性別すら曖昧で中性とされ ることも。
 クシャスラは神の力の行使者であり、地上の悪を駆逐し、神の王国を作り出すことを目的とする。
 空とあらゆる鉱物の守護者であり、石臼とすりこぎを象徴する。
 宿敵はサルワ。

・すきなもの・
 ・宝石
・きらいなもの・
 ・無政府主義者


・解説
 宿敵のはずのサルワがまだここにいないのが困ったものですが。
 それはさておき、実はこの方、この左のイラストを描いていたのをすっかり忘れて、もっかい描いたりしてます。もっとも、これよりもさらに抽象的、という か石臼とすりこぎそのまんまなんで全く手はかかってませんが。ちなみに、そちらの絵は諸星大二郎のグリム童話漫画の中にあった浮いている石臼の絵が非常に シュールで印象深かったのでほとんどそのままパクってます。一応見てみたいという御仁は左の絵をダブルクリックしてみてください。





     ・ハルワタートさん・


      「ふたりは!」

     Haurvatat
            
 「幸福」「保険」「季節」「年月」「全体」などを司るアムシャ・スプンタ。「完全なるもの」。
 古来から存在していた水の女神であり、ゾロアスター教に取り入れられて以降はアムシャ・スプンタの一柱として活躍するようになったらしい。
 「不滅なるもの」アムルタートとは二柱一組セット扱いで言及される。
 宿敵はタルウィ。
 
・すきなもの・
 ・聖水
・きらいなもの・
 ・旱魃


・解説
 この辺りはもう解説することも別に無いのである。




      ・アムルタートさん・


       「完全不滅!」

     Ameretat            
 「植物」「不死」を司るアムシャ・スプンタ。その支配概念が象徴するように、「不滅なるもの」とされる。
 ハルワタートの水によって育成された植物を食べ物として人々に与える存在でもある。ハルワタートとアムルタートは二柱一組で「完全」にして「不滅」を象 徴するものであり、それはすなわち、ゾロアスター教における理想的な神の王国の真理を表しているのである。
 宿敵はザリチェ。

・すきなもの・
 ・美味しい草(を大地と人々に与えること)
・きらいなもの・
 ・毒草



・解説
 この辺りはもう解説することも別に無いのである。






          ・アカ・マナフさん・


「飲み込まれていただきましょうか、悪という名の深淵に」

       AkaManh 
 
 絶対悪アンラマンユによって創り出された悪魔的存在・ダエーワの代表格である六大悪魔(メンバーは変動)の一柱。
 「悪意」を司る存在にして六大悪魔の筆頭格であり、アンラマンユに次ぐ地位にあるとされる。
 人間全てを悪意に引きずり込むことをその使命としており、アフラマズダの創り出した天使的存在の最上位アムシャスプンタの一員、「善意」の象徴たるウォ フマナフをライバルとする。
 当人はアンラマンユのエージェントとして今日も忠実に仕事をこなしている。


・すきなもの・
 ・善良な人々を悪の道に引きずり込むこと。
・きらいなもの・
 ・人間が善意に目覚めること


・解説
 インドにおいて悪なる(といっても、ヒンドゥー教は絶対的二元論に基づいているわけではないので、良い神もいるのだが)神々とされるアスラがゾロアス ター教では善なる神々の象徴となったように、インドでは善なる神々とされるダエーワがゾロアスター教では悪魔のような存在として扱われるのである。

 とりあえず、悪魔専門サイトだったころの名残もあるので、時代背景的には「?」な感じだけど(いや、そもそも時代設定なんてもう…)、ゾロアスター関連 の悪魔をやっておこう、と。
 モエゲトンからの繋がりもあるし、全ての悪魔を女性化しようかとも思ったんだけど、ゾロアスター関連の悪魔は元々おんなのこが多いので、とりあえず六大 悪魔の性別は元ネタ通りにしてみる。
 で、アカマナフはデザイン的に結構お気に入りだったり。多分、人間の善意を吸収して悪意に変えたりする度に身体の色が黒くなったりするんじゃないかと思 う。
 




          ・ドゥルジさん・


「ぶんぶんぶんぶん!ぶんぶぶんぶんぶぶんぶん!」

        Druj    
    
 六大悪魔の一員、「虚偽」を司る女のダエーワ。忌まわしき怠惰なる者。
 自身の配下として不義者(ドラグワント)を操り、この世の絶対法則「天測」を司るアムシャスプンタ・アシャと対立する。戦いの中、アシャに仕える下位の アシャワンを誘惑して堕落させたりもする。
 意外なことに、ゾロアスター教の悪魔の中では最古参らしく、アカマナフ出現以前は六大悪魔の筆頭を任されていたという。また、アンラマンユが落ち込んで いる際には彼女だけが彼を励ますことが出来たという。
 ゾロアスター教における忌々しい動物、ヘビ、カエル、サソリ、トカゲなどを身体中に這わせており、彼女自身は蠅としてあらわされる。ザラスシュトラを誘 惑に赴いた際には、このことを手ひどく指摘され、乙女心を傷つけられたとかなんとか。
 

・すきなもの・
 ・アンラマンユ、嘘をつくこと
・きらいなもの・
 ・正直者


・解説
 ドゥルジはゾロアスター教の教義上においても非常に重要な悪魔であった。おそらくは、ゾロアスター教誕生以前よりその地域で恐れられていた疫病や死を撒 き散らす邪神だったのではないだろうか。それが人々に浸透した名前を利用するという目的の元ゾロアスター教に取り上げられた際に、現世的、物質的な能力で はなく、精神性の強い能力、役目を与えられることで、ドゥルジという、人々に知られた名前を利用することで、ゾロアスター教にとっての「悪しき存在」を知 らしめるのに役立てたのではないだろうか。
 その後ドゥルジはその精神性を弱め、屍、穢れといったものを象徴した、非常にわかりやすい悪魔へと変容を遂げる(同様の性質を持った女悪魔ナスとの混合 等も起こった)とともに、ゾロアスター教の教義を取り仕切る人々からは重要度の少ない悪魔とされ、果ては女悪魔の一群を示す、非個人名になったりも。
 この辺り、ゾロアスター教の精神性の強い特性が人々に浸透しきれず、以前の疫病の邪神としての性質が再び取り上げられることになったのでは、と考えても みたのだが、根拠はないので詳しい人はあんまり怒らないで。





       ・タローマティさん・


         「ぐー、その呪文はやめてー」

      Taromaiti   

 「背教」「憶測」を司るダエーワ。六大悪魔の一員。
 対立者は、「敬虔」「献身」を司るアムシャスプンタ、女神アールマティであり、タローマティもまた女性悪魔である。
 彼女の目的は、人々を憶測による疑念の渦に取り込むことによって、不安に陥れ破滅させること。また、そうすることによって、人々がアールマティによる救 いを受け入れられないようにするのである。


・すきなもの・
 ・サイコホラー
・きらいなもの・
 ・「アルヤーマ・イシュヨー」


・解説
この辺りになると、段々解説することがなくなってくる。
デザインもオーソドックスなモエゲトン悪魔(人間型)系。
 他がみんな裸なのに、なんでこいつだけ明らかに時代錯誤な服着てるんだろ。とほほ。




       ・インドラさん・


  「堕ちても……我が腕は雷を失ってはいない」

       Indra   

 六大悪魔の一員。
 ドゥルジ同様、アシャと対立する存在なのだが、どうも当人はアフラマズダ及びミスラとの因縁のほうが重要らしい。
 今や虚偽の執行者であるのだが、本来持っていた雷を操る力も失ってはいないらしい。
 


・すきなもの・
 ・戦闘、雷雨
・きらいなもの・
 ・アスラ神族


・解説
 現在でもメジャーなヒンドゥー教の神・インドラと同一。元より著名なダエーワ神族である彼は、ゾロアスター教においては悪魔とされるのである。
 しかし、元ネタの強大さとは裏腹に、ゾロアスター教においてインドラはそんなに目立つ悪魔ではない。六大悪魔を挙げる際にはサルワあたりの名前が出る方 が多いんじゃないかと思う。
 しかし、その役目はドゥルジが一般的な悪魔になってしまったことの穴埋めであるので(つまり、インドラとドゥルジが六大悪魔として同席しているのはかな りありえないことなんである、色々な神話ネタが出来そうで、キャラも立てやすそうな男悪魔がもう一人くらい欲しかったんで入れたんである。アバウトですい ません)、立場自体はかなり優遇されているともいえる。もっとも、悪魔にされた時点で優遇も何もないわけだが。

 なお、ヴェーダ時代のインドラは、ヴァルナ、ミスラとともに(それ以上に)重要な神、言うなればヴェーダにおける主神である。ヒンドゥー教に取り入れら れた後はヴィシュヌ、シヴァといった新たな時代の超越神の引き立て役などに甘んじることが多くなるのだが、やはり仏教に伝えられた際に再出世、帝釈天とし て広く信仰を集めることになる。
 
 




          ・タルウィさん・


     「汚してやる、大地なんか!」

        Tarvi   

 「熱」を司る、六大悪魔の一員。
 次に紹介するザリチェとペアで紹介される悪魔であり、両者ともに人間に加齢と老衰をもたらすものであり、植物の敵という性質を持っている。
 タルウィの宿敵は「完全」なるものハルワタート。水と植物を司るアムシャスプンタである。
 

・すきなもの・
 ・みんなが裸足で土の上を歩くこと
・きらいなもの・
 ・水と花


・解説
 この辺りはもう解説することも別にないのである。




       ・ザリチェたん・


   「私たちは闇の住人、光なんて求めないの」

       Zairisha   

 
「渇き」を司る、六大悪魔の一員。
 前に紹介したタルウィとペアで紹介される悪魔であり、両者ともに人間に加齢と老衰をもたらすものであり、植物の敵という性質を持っている。
 ザリチェの宿敵は「不滅」なるものアムルタート。食と植物を司るアムシャスプンタである。


・すきなもの・
 ・毒草(を大地と人々に与えること)
・きらいなもの・
 ・美味しいもの


・解説
 この辺りはもう解説することも別にないのである。




               ・アンラ・マンユさん・
                               



               「闇よ、つどえ!」


 AngruMainyu     
 純粋悪。
 アフラマズダによって創造されたすべての善なるものの敵対者にして全ての悪なるものの創造者を名乗る存在。
 しかし、彼自身もまたアフラマズダの被造物の一つであり、彼の行動自体もまた、悪の一局集中化によって、来るべき日の悪の根絶を完全なものにするための 計画に記されたものなのだとも。アンラマンユ当人は、そうして定められたであろう自身の役目を知っており、なおかつ自由意志を持っていながらも、純粋悪と いう性質ゆえに、計画に反した行動を取ることはしない。いずれ、世界の破滅を目論んで築き上げた軍勢が、善なるものたちによって消し去られることを知りな がら。
 
 


・すきなもの・
 ・悪
・きらいなもの・
 ・善


・解説
 世界の混沌さを反映したかのように、どの神々も様々な側面を持っており、一概にいいもんだとかわるもんだとか断定できない多神教に対して、世界を完全な る存在である唯一神によって創造されたものであるとする一神教には、常に「完全なる神が創造した世界に、何故悪が蔓延るのか、何故人間はこうも不完全な存 在なのか、そして、何故神はそれを見過ごしているのか」という疑問が付きまとうものである。
 そこで考え出された(と、言ってしまうと実も蓋もないのだが…)のが、「それも神の考えたとおりなのだ」という完全無欠、これを言われたらどんな矛盾を 指摘しても反論することが出来ない解答である。人間が様々な不幸に迷い、悪に惑わされるのは不完全な存在だからこそであり、この世界はいずれ変質を遂げ、 (主に選ばれた者だけが)完全なる存在になることが出来るのだ、だから私を信じなさいほれ信じなさい、ということである。
 しかし、それだけでは複雑な教義や思想性に馴染まない、多数の人々には浸透しないのである。人間が不完全なものであることはわかっていても、生きていく 上ではそれだけでは納得しきれない不条理な不幸が多過ぎるのではないか。人間が不完全であるほかにも、それを助長するもの…それまでの多神教には存在しな かった、悪そのものを擬人化した超常的存在、すなわち悪魔という概念が必要だったのである。
 この概念は、民衆にとっても、宗教的指導者にとっても大いに受け入れやすいものであったようで、ゾロアスター教では、開祖ザラスシュトラの口述を記した 『ガーザ』の頃には非常に観念的な存在で、「アンラマンユ」なる名前すら持っていなかった、世界の中で「悪を担当するもの」は、時代とともにその存在感を 増していくことになる。
 ペルシア帝国の拡大とともにゾロアスター教も繁栄を極めることになるが、その頃にはアンラマンユ―アーリマンは、もはやアフラマズダ(オフルマズド)に 匹敵する汎万能の存在となっていた。唯一絶対の神を信仰するはずの一神教が、その教えに背反する要素を持った二元論の影響を受ける…これは後にキリスト教 も同じ轍を踏むことになる。

 なお、「アンラマンユ」は、アフラマズダやミスラ同様に元はペルシアの古代の神であり、ミスラの陪神を務めていたとする説もあるそうな。
 
   



 □ヘ ブライ編 □カナ ン編 □ バビロン編 □ペルシア編 □ その他編 



                      戻る