WATCHMEN


                   

                               who watches the watchmen?













            
                        コメディアン
                    本名:エドワード・ブレイク
ヒーローの誕生した1940年代から、物語の始まりに至るまで活躍していたベテランヒーロー。『ウォッチメン』の物語は彼が何者かに殺害される所から始ま る。
米政府との繋がり、従軍経験などからすると、キャプテンアメリカに代表されるいわゆる愛国ヒーローの皮肉の込もったパロディー、といった所でしょうか(直 接のモデルは、チャールトンコミックスのピースメイカーというヒーロー)。暴徒鎮圧のためとはいえ、一般市民に何の躊躇いも無く暴力を振るうわ、隙を見せ れば女性を襲うわ(しかも責任は取らない)、ベトナム戦争に従軍すれば、殺戮を嬉々として行うわ、帰国後は政府のエージェントとして暗殺行為を行うわ、 と、とてもじゃないがヒーローとは呼べない言動の目立つ人物。だが、自分や世界の運命といったものに達観している一面も。この作品のキャラクターたちはみ んな意味は多少違えど「妥協できる大人」になるか、ならないかという命題を抱えているのだけど、そんな中、彼は誰よりも大人 だったんでしょうね。
初読時は、最初に殺される人という程度の印象でしたけど、読み返すにつれ、1話1コマ目で既に死んでいても、彼も主役の一人なのだなあ、などと感じるよう に。彼の性格もまた、この作品のあまりにも多様なテーマの一つを象徴しているってことなんでしょうね。個人的には、決して好きにはなれないんだけども、な んだかそれだけでは終わらないキャラという感じがします。その辺りもまさにこの物語の中での彼の扱いそのままな辺り、やっぱりうまいなあ、と。


 






             

                      初代ナイトオウル
                      本名:ホリス・メイソン
最初期に活躍したヒーローの一人。物語開始時は既に老齢でヒーロー業を引退しており、客のほとんど来ない車修理の店を開いて、余生を過ごし ている。
間違いなく、この作品中で1番ダサいコスチュームである。1940年代のヒーローという雰囲気は出ているけど、それにしても格好悪い。とりあえず、生足は 勘弁して欲しい。
それはともかく、私がこの作品で1番好きなキャラである。文章パートにおいて、彼の自著から抜粋して語られる、ヒーローの誕生と、その黎明期、そして自分 自身がヒーローになろうと決心した逸話など、どれも何処か微笑ましくも、同時に『ウォッチメン』ユニバース(とでもいうのか)におけるヒーローの存在の 「それらしさ」を支える骨子となっており、素晴らしい。かっての宿敵と、近所で再会してみたら、家族持ちの気の良いおじさんになっていて、電話番号を交換 したという話など、なんだか良い味出していて好き。それだけに…






              

                      初代シルクス ペクター
                     本名:サリー・ジュピター
最初の女性スーパーヒーロー。色々苦労はしたけれど、メイソンさんに比べても裕福そうな老後を送っているだけに、かってのヒーローたちの中ではかなり幸せ な人。なんだか達観してるし。
正直な所、私は何度読んでもこの人の好みがよくわからない(笑)。
ヒーローになった理由はわかりやすいし、その活動中の心情なんかは本編ではほとんど語られないにもかかわらず、文章パートの雰囲気のおかげで読者は容易に 想像できるようになっているのだけど、彼女を中心とするストーリーラインのもっとも重要な部分については、はっきりと語られない。もちろんこれも、恋愛と かってそういうものなんだろうね、という言葉で説明できることなんだけど、やっぱり、ああいう感情を抱くようになったのは不思議。
でも、あえて語るべき部分でもないし(むしろ、彼にもこんないいところがあったのよ、みたいな描写があった方が良かった、などとは絶対思わない)、人間と いうものの不条理さと、それでも仕方ないじゃないか、ということをよくあらわしていると思います。








                

                       ロールシャッハ
                    本名:ウォルター・コバック
ヒーローの廃止、管理を行った政府に反して、一人活動を続けているアウトローヒーロー。
間違いなく、この作品で一番の人気キャラ。なんたって、デザイン的にはかなりあんまりな感じの連中が多い『ウォッチメン』では唯一の普通に格好良いデザイ ンだから(笑)。スパイディやデッドプール同様のシンプルだが印象的なマスクに、帽子とトレンチコート。まさに現代でも通用する格好良さ。それだけに、そ のオリジンはなかなかショッキングなものとして読者の目に映るわけですが。
さまざまな仕掛けが施されているキャラでもあって、感情に合わせて絶えずマスクの模様が変化しているのには私もすぐに気付いたんですけど(どの模様がどの 感情に対応しているのか、まではわかりませんが)、専用フキダシについては指摘されて始めて気が付きました。過去描写との違いなどとあわせて見返すとその 周到さに驚いてしまいます。
なお、ロールシャッハというキャラについては個人的に、過激な思想性とその原因でもある、「子供」らしさに共感できませんでした。でも、やっぱりウォッチ メンの主 人公、というと誰もが最初に彼を思い浮かべるはず。主要ヒーローたちは、みんなそれぞれ『ウォッチメン』という作品を象徴するキャラになっているのですが (それぞれのキャラがまったく違う役割、性格付けをされているにもかかわらず、矛盾せずに作品を象徴する存在として成り立っているのも、完成度の高さの一 面である)、その中でもロールシャッハの存在感はやはり突出しています。また、やはりその性格に問題があるとはいえ、この作品の中で何度も突きつけられ る、妥協するか妥協しないかという選択を、彼は読者の心情に一番近い形で、迷いも無く決断してくれるのも大きいんでしょうね。やっぱり、悪党という悪党を 迷い無く徹底的に叩き潰してくれるアウトローヒーローというものには惹かれちゃうものですし。
ところで、DCのビジランテにはまったく共感できなかったというアラン・ムーアからすると、彼はどうなんでしょう。反政府活動を行ってはいるものの、極右 雑誌を愛読し、トルーマンやその行いを賞賛するあたり、ムーアの嫌いそうなものが詰め込まれている感じもするんですが(『ウォッチメン』世界における最初 のヒーローであるフーデッド・ジャスティスがナチズムを信奉していたというのも、ムーアの最終結論である、「ヒーロー性は最終的にはファシズムになる」に 繋がりますし)。
そんな彼のちょっとした行動から導かれるエンドシーン(この作品で一番わかりやすい伏線の回収でもある)は、ロールシャッハに共感できた、できないにかか わらず、読者に不思議な感慨をもたらすこと必至。

なんだかんだで、こいつのアクションフィギュア欲しいです。はい。

                   
                   





        
    

           
                       2代目ナイ トオウル
                      本名:ダン・ドライバーグ
初代ナイトオウルの活躍に感銘を受け、2代目を襲名したヒーロー。政府がヒーロー行為を禁止したのに伴って引退していた。
実は、一番主人公らしい主人公。でも、人気は低そう。だって、コスチュームが格好悪いから…もちろん、それだけじゃなくて、彼のように人間的に非常に共感 できる人物以上に、現実的なところから多少逸脱した部分のあるキャラクターの方が人気が出るのはある意味当然かな。大体、この人、他キャラに比べても格好 良い活躍が少ないし。
しかし、引退して燻っていた、そろそろ中年にさしかかろうというおっさんが、昔を忘れられずに再び立ち上がる、という展開は個人的にも好み。ギャラクシー クエストとか、最近ではマーベルのセントリーとか。それだけに、今の目で見るとこの作品の中では珍しい、「お約束」的な展開ともいえるんだけど、彼が偶 然、ヒーロー活動を再開することになってしまうエピソードにおける、どこか叙情性すら感じるあの夜空、そして、かっての相棒との距離はあるけど断ち切られ ていない信頼感というなんだかリアリティを感じさせる友情。はっきりいって終始リードされてばっかりで情けないことこの上ない恋愛描写など、どれも良い味 を出している。
彼とロールシャッハならば、共感できるのは圧倒的に彼の方なのだが、それだけに、終盤の彼の何もしない、できない、極めて共感できる行動と、ロールシャッ ハの普通の人間がやろうとはしない行動に明確な読者人気の差が出そうな気がする。要するに、「そこにシビれるアコガれるぅッ」というやつである。読者に とって共感できるキャラと好きになるキャラということの良い見本ですね。
ところで、この人の乗り物、オロシャのイワンさんの愛機(頭部)に似てるよね。あと、寒冷地専用きぐるみコートがなんだか可愛くて好き。


                








            
 
                    2代目シルクスペクター
                  本名:ローリー・ジュスペクツィク
引退した母親の跡を継いで、ヒーローとして活動していた女性。やはり、物語の開始時には既に引退しているのだが、この世界で最も重要な人物 であり、政府の管理下でヒーロー活動も行っている恋人、Dr.マンハッタンと同棲している。。
一応、この作品のヒロインに…なるのかな。誰かも言っていたけど、本当に花のない話だよなあ、これ(笑)。
個人的には、話が恋愛絡みばかりなのと、それ以外には特になんもしない人なので(ナイトオウル復活が最大の功績かも)、主要キャラとしては印象の薄い人。 とはいえ、母親との確執、そしてその結末など、見応えは多い。だけど、生まれや母親との関係性に大きな影響を受けているはずの彼女の恋愛関係自体が深く描 写されないため、単なるヒロインで終わってしまっているような感があるのが残念でもある。
地味なコスチュームなので、あまりヒーローらしくないのだが、35歳ではこの衣装も結構辛い所があるよね、などとも感じてしまいました。








               

                       Dr.マン ハッタン
                    本名:ジョン・オスターマン
基本的には常人しか存在しない(超能力者は存在するらしいが)『ウォッチメン』世界における、たった一人の「超人」。神にも等しい能力を 持った彼が誕生したことから、『ウォッチメン』の世界は現実の歴史とは少し違った歴史を歩むこととなったのである。初代ナイトオウルが「現実にヒーローが いたら」というリアリティの下地なら、Dr.マンハッタンは「歴史改変SF」としての『ウォッチメン』世界観構築の下地である。この世界では、彼の存在に よってベトナム戦争はアメリカの圧倒的な勝利に終わっているし、彼の頭脳によって現実ではいまだ不可能なさまざまなテクノロジーが実用化されている。そん な、神の如き存在である彼がいたために、ニクソンがいつまでたっても大統領の座に居座って政権を執り、現実よりも世界情勢が緊迫した状態となってしまって いるのは皮肉である。
彼の、万能であるがゆえに人間性の薄れた、しかし、弱さのある心理、彼が自身、人々、世界というものを見つめ、自問自答を行うさまは、この作品の肝であろ う。その結論は『寄生獣』の結論に近いものがあるんじゃないかと。
個人的にも、彼の弱さ、人間性ではなく、あえて神の視点から、人間の存在に価値を見出す部分など、興味深い。
…しかし、同時に露出癖が妙に印象に残ってしまうのが困りものである。





               

                   



           

                     オジマンディア ス
                   本名:エイドリアン・ヴェイト
天才的な頭脳と、超アスリート級の体力、そして平和を愛する正義の心と3拍子揃った、まさにヒーローらしいヒーロー。
他のヒーローたちが大なれ小なれ非難の目で見られている中、彼だけは政府によってヒーロー活動が禁止になる直前に正体を公表して引退。その後は事業に専念 して、Dr.マンハッタンの発明したさまざまな新技術を商品として普及させ、様々な社会貢献を行って全ての人々に尊敬される存在となっている。まさに、こ の世界における真のヒーローとでもいうべきキャラクターである。
しかし、市井の人々から聖人と呼ばれている彼も、人間的な弱さからは逃れられない。ある意味純粋とも言える正義の心は、同時に彼がこの世界の不条理に妥協 することの出来ない「子供」らしさを抱えているということでもあったのだ。
自分のことを古代エジプト王ラムセス2世と名乗る(オジマンディアスはラムセス2世の即位名ウセル・マアト・ラーを古代ギリシャ人がギリシャ風に読み替え たもの)あたりに、このキャラクターへのムーアの考えが含まれているような気がしますね。まあ、ラムセス2世なんて自分の奴隷に反逆されて反対に部下にさ れたよう奴だからなあ(それは別の漫画の世界の話)。
この人についてはとにかく、事業の一環として、物語の舞台である1985年の時点で「全関節完全可動」「ギミック豊富」「プロポーションも良好」なアク ションフィギュアを開発、発売してくれている、というだけで褒め称えてあげたい(笑)。メインとなるフィギュアのサイズが10インチなのがちょっと残 念…って、これを読んでこんな感想を抱く馬鹿はあんまりいないだろうなあ。



              
               

                  
           





 
   
                  
                 
  と、こうして少しでも多くの人に『ウォッチメン』の素晴らしさ を知ってもらおうと、感想などを書き連ねてきたわけですが、困ったことに邦訳版は1998年発売と、そんなに古い本ではないというのに、現在絶版となって おります。近年刊行された邦訳アメコミの中でも結構なプレミアが付いており、ヤフーオークションなどでは大体、10000円〜というような状態です(な お、定価も内容の厚さ相応の3800円。私が今まで見た一番ひどい値段は、50000円超えという、お店を疑ってしまうものでした)。
 国内邦訳アメコミ出版最後の砦とでもいうべきジャイブでは、サイトや本の間に挟まっているチラシなどの「発売したいもの」に本作を挙げてくれていたんで すが、そのとき一緒に挙げられていた「Vフォー・ヴェンデッタ」すら小学館プロの方が出したくらいなので、あまり希望を持たない方がいいかもしれない。あ とは、続報がまったく聞こえてこない映画版『ウォッチメン』公開の際に期待するしかないかも(映画版は仮に完成したとしてもとても面白くなるとは思えない けど)。
 また、何処まで期待していいのかはよくわかりませんが、復刊ドットコムにおいて邦訳版の復刊リクエストが募集されており、うれしいことにリクエスト数が 100票を突破、出版社への復刊交渉が行われてい るとの事です。現在は出版社への打診を行っているとの事ですが、もう半年程その状態なのがなんだか不安です。とっくのとうにアメコミから手を引いているメ ディアワークスだけに、契約が切れていないかどうか…

英語が堪能な方なら、Amazonで 原書のTPB(日本でいう単行本みたいなもの)が買えます。通常版2000円ちょい、豪華版9000円、となかなかインパクトのある値段設定ですね。

 『ウォッチメン』以外のアラン・ムーア作品については、
アメコミくえすとさ んのコンテンツを参照すべし。邦訳作品の中では、個人的にジャイブから出ている「バットマン・キリングジョーク」が好きです。マーヴルクロスが好きだった ので、こんなふうに色々な話が入っているとうれしくなります。                   

 2012年追記
 その後、皆様ご存知のとおりアメコミ邦訳はかつてな い春が訪れております。
 もう何年前に書いたかわからん上の文章から月日は流 れ、いまやウォッチメンの映画化は成功し、そしてそれに合わせて新たに刊行されたウォッチメン邦訳版は版を重ね、このアメコミ邦訳の春の大きな土台となっ たと言っても過言ではないでしょう。映画版も上ではやたら偉そうなことを書いてますが、多くのファンにとって納得のいく完成度のものとなるという奇跡も起 きました(個人的な感想とは前に雑記にも書いたんで省略)。
 過去の絵や過去の文章を見るのはキツイなあと思いな がら(セントリーが「復帰したかつてのヒーロー」だなんて…)ここも 見直し、どう考えてもいらない最初の文章を全部削る以外は、あとはめんどいのでこの追記だけにとどめてみます。
     



                   





                     
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